1999年にリリースされ、今なお絶大な人気と知名度を誇る椎名林檎の名曲『丸の内サディスティック』。
令和の現在でもカラオケの人気上位曲に入り続けている不朽の名作ですが、歌詞の内容が難しいと感じている方は多いようです。
この記事では丸の内サディスティックの歌詞の意味に焦点を当てて徹底的に解説・考察していきます。
丸の内サディスティックとは
丸の内サディスティックは椎名林檎の1stアルバム『無罪モラトリアム』に収録された曲です。
「丸サ進行」とすら呼ばれるようになったコード進行とグルーヴ感が魅力的なナンバーですが、曲の有名度やすばらしさに関しては改めて語る必要も無いかもしれませんね。
実はこの曲はシングルとして発売されたわけでもなければ、ドラマや映画の主題歌として製作された訳でもありません。
いわばただのアルバム曲の一つに過ぎないのですが、それにもかかわらず椎名林檎の代表作として誰もが知る存在となった、という有名曲としては珍しいパターンなのです。
歌詞全文
報酬は入社後並行線で
東京は愛せど何も無いリッケン620頂戴
19万も持って居ない 御茶の水マーシャルの匂いで飛んじゃって大変さ
毎晩絶頂に達して居るだけ
ラット1つを商売道具にしているさ
そしたらベンジーが肺に映ってトリップ最近は銀座で警官ごっこ
国境は越えても盛者必衰領収書を書いて頂戴
税理士なんて就いて居ない 後楽園将来僧に成って結婚して欲しい
毎晩寝具で遊戯するだけ
ピザ屋の彼女になってみたい
そしたらベンジー、あたしをグレッチで殴って青 噛んで熟って頂戴
終電で帰るってば 池袋マーシャルの匂いで飛んじゃって大変さ
毎晩絶頂に達して居るだけ
ラット1つを商売道具にしているさ
そしたらベンジーが肺に映ってトリップ将来僧に成って結婚して欲しい
毎晩寝具で遊戯するだけ
ピザ屋の彼女になってみたい
そしたらベンジー、あたしをグレッチで殴って
歌詞の解釈・全体像
個人的な解釈も含みますが、丸の内サディスティックという曲を簡単に説明するならば、
上京してきた女性が苦悩しながらも音楽から活力をもらって生活する姿を、セクシャルな言葉遊びを交えつつ表現した曲
と言えるのではないでしょうか。
そのように考えられる理由や、ところどころに登場する不思議な単語についてはこの後解説していきます。
歌詞の意味について解説・考察
曲の主人公は上京してきた女性
報酬は入社後並行線で
東京は愛せど何も無い
まず、この冒頭のフレーズから主人公の状況が読み取れます。
次の歌詞につながってくるのですが、「報酬は入社後並行線で」というように主人公はお金を欲しがっています。
「東京は愛せど何も無い」というフレーズも上京したての人物の感覚として自然なのではないでしょうか。
椎名林檎は福岡から上京し、メジャーデビューしています。
もしかするとそんな当時の椎名林檎自身の姿も投影されているのかもしれませんね。
「リッケン620」とは?
先ほどの冒頭のフレーズに続いて、いきなり「リッケン620」という不思議な単語が飛び出してきます。
リッケン620頂戴
19万も持って居ない 御茶の水
この「リッケン620」というのはリッケンバッカーという楽器メーカーが出していたギターのモデル名のことです。
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現在は値上がりしていますが1999年当時の価格で考えたら「19万円」ほどであることや、「御茶の水」が楽器の町として有名であることなどからも間違いないでしょう
主人公の女性は「リッケン620が欲しいけれど、そんなにお金がないよ」と言っているわけですね。
余談ですが、このギターは椎名林檎本人が実際にステージで使用したこともあります。
1番のサビ:「マーシャル」「ラット」「ベンジー」とは?
聞く人をさらに混乱させるのがサビの歌詞。
マーシャルの匂いで飛んじゃって大変さ
毎晩絶頂に達して居るだけ
ラット1つを商売道具にしているさ
そしたらベンジーが肺に映ってトリップ
実は「マーシャル」「ラット」「ベンジー」は音楽用語であり、これを理解することでサビの歌詞を解釈することができるようになります。
- マーシャル:ギターをつないで音を増幅させるアンプのメーカー
- ラット:ギターの音を変化させるエフェクターの一種
- ベンジー:椎名林檎が敬愛するBLANKEY JET CITYのボーカル、浅井健一の愛称
いかがでしょう。これでだいぶ分かりやすくなったのでは。
上京して苦悩している女性が、”毎晩音楽を聴いて絶頂に達し、トリップ”しているのです。
そんな様子を「マーシャルの匂いで飛んじゃって大変さ」と表現するのがなんともおしゃれですよね。
この後にも出てきますが、どことなく”セクシャルな言葉遊び”という感じもありますね。
また、ギターを買おうとしていることや、「ラット1つを商売道具にしている」ことから(これが主人公のことであれば)、主人公はミュージシャンを目指している人物かもしれませんね。
最近は銀座で警官ごっこ
最近は銀座で警官ごっこ
国境は越えても盛者必衰領収書を書いて頂戴
税理士なんて就いて居ない 後楽園
あくまで推測ですが、この部分は主人公が夜職についているようなことを連想させます。
主人公が”売れていないミュージシャン”だとするとまた筋が通りますよね。
椎名林檎の楽曲『歌舞伎町の女王』では、
一度栄えし者でも必ずや衰えゆく
というフレーズが登場します。
椎名林檎の中で「盛者必衰」と「夜職」は結び付けられているのかもしれません。
2番のサビ:「ピザ屋の彼女」「グレッチ」とは?
2番のサビも解釈の難しいフレーズであふれています。
将来僧に成って結婚して欲しい
毎晩寝具で遊戯するだけ
ピザ屋の彼女になってみたい
そしたらベンジー、あたしをグレッチで殴って
「毎晩寝具で遊戯するだけ」も”セクシャルな言葉遊び”ですね。
1番のサビでも”毎晩音楽で絶頂”する様子が描かれていました。
もしかすると「寝具」と「シングル」をかけた言葉遊びでもあるのかもしれません。
続いて、不可解なフレーズ「ピザ屋の彼女」「グレッチ」について解説します。
- ピザ屋の彼女:BLANKEY JET CITYの『ピンクの若いブタ』という曲から引用
- グレッチ:浅井健一が愛用するギターのメーカー
1番のサビにも出てきましたが、主人公はとにかくBLANKEY JET CITYの浅井健一が好きなようです。
これも余談ですが、椎名林檎本人が浅井健一を敬愛していることを示す有名なエピソードがあります。
なんと、椎名林檎の楽曲『罪と罰』のギターは浅井健一が担当しているのです。
”絶対に浅井健一にギターを弾いてほしかった”椎名林檎は、ギターパートのみを外して収録したデモテープとこの曲に対する気持ちと自身の電話番号を書いた手紙を同封して浅井に送ったのだとか。
相当な熱意が感じられますよね。
青 噛んで熟って頂戴
ベースソロ後、ラスサビ前の歌詞もなかなかにインパクトがあります。
青 噛んで熟って頂戴
終電で帰るってば 池袋
「青 噛んで熟って頂戴」。漢字を変えていますが、まさに”セクシャルな”言葉遊びという感じですよね。
その後の「終電で帰るってば」という言葉からも明らかに意図的な表現でしょう。
まとめ・感想
ここまで丸の内サディスティックの歌詞について解説・考察してきました。
知らなければ理解できないような音楽用語や性的な表現がちりばめられた、まさに若い頃の椎名林檎らしさが詰まった一曲でしたね。
実際、筆者の周りにも「歌詞の意味がよくわからない」という人が多いこの曲。
それにもかかわらず大ヒットしている、不思議な魅力のある曲であることは間違いありません。
女性でも男性でも、音楽から日々の活力を得ている人は多いはず。
そういった意味では、この曲の歌詞を理解することでさらに深い共感、感動を味わえるようになるのではないでしょうか。
この記事が少しでも皆さんの解釈の助けになっていれば幸いです。